- 保健師として就職したいと考えている看護学生の人
- 看護師から保健師に転職したいと考えている社会人の人
保健師としての就職先にはいくつかの選択肢がありますが、その中で自分はどこに就職できるのか、どこに就職するのがベストなのか悩んでいませんか?
就職先によって業務内容も異なるため、自分が働きたいと思える就職先を見つけることは非常に重要です。一方で、人によっては就職が難しい就職先も存在します。
この記事では、保健師の代表的な就職先を7つ紹介しています。この記事を読むことで、各就職先での保健師の仕事内容や、就職するための方法と難易度が分かり、自分に合った最適な就職先を見つけることができます。
保健師になるにはどうしたらいいのか?
保健師になる(保健師として働く)ための条件は以下のとおりです。
- 看護師の国家資格を所有していること
- 保健師の国家資格を所有していること
- 保健師として採用されること
保健師の国家資格は看護師の国家資格を持っていないと取得することができません。保健師の国家資格を所有していて、かつ保健師として採用されて初めて保健師になることができます。
保健師の国家資格を取得するための方法は以下のとおりです。
- 4年制大学で看護師と保健師の両方の国家資格を取得する
- 短大や専門学校を卒業後、1年間保健師養成学校へ通う
- 看護師の国家資格を取得後に大学院へ進学する
4年制大学へ進学しても、保健師養成課程コースを受講できるのは成績上位者のみということもあるため注意が必要です。
近年は国立大学を中心に保健師養成過程の大学院化が進んできているため、今後は大学に進学したとしても保健師の国家資格を取得できないという可能性も出てきます。
大学院は募集人員が少なく、2年間での単位取得と卒業論文作成が忙しいので、今後保健師の国家資格取得のハードルは確実に上がっていきます。
保健師の主な就職先を7つ紹介
保健師の国家資格を取得しているだけでは保健師になることはできません。保健師として採用されることが必要です。
厚生労働省の調査によると、令和4年末の保健師の就職先は以下のようになっています。
就業場所 | 割合(%) | 人数(人) |
---|---|---|
病院 | 7.7 | 4,666 |
診療所 | 4.0 | 2,396 |
保健所 | 17.2 | 10,333 |
都道府県 | 3.0 | 1,821 |
市区町村 | 51.6 | 31,104 |
事業所 | 7.0 | 4,201 |
その他 | 9.6 | 5,778 |
※保健所では、ほとんどが都道府県の保健師が配置されていますが、一部の規模の大きな市区町村も保健所を独自に持っているので「都道府県」と「市区町村」とは別々に集計されています。
保健所、都道府県、市区町村を合わせたのがいわゆる行政保健師です。
保健師の主な就職先は以下の7つです。
- 都道府県・市区町村(行政保健師)
- 地域包括支援センター(包括保健師)
- 病院・クリニック(病院保健師)
- 企業(産業保健師)
- 介護施設(施設保健師)
- 学校(学校保健師)
- 特定保健指導業者(業務委託保健師)
①都道府県・市区町村(行政保健師)
保健師の7割以上が行政保健師として働いています。行政保健師の特徴は以下のとおりです。
- 公務員なので安定している
- 組織化されているので教育体制が充実している
- 住民との関わりが持てる
行政保健師は都道府県や市区町村といった自治体に採用されている保健師なので、同時に公務員です。
組織化されているため教育やフォロー体制、役割分担がしっかりしているのが特徴です。住民の健康を支えることが目的なので、地域住民との関わりを持って働くことができます。
②地域包括支援センター(包括保健師)
地域包括支援センターは主に高齢者の介護支援を担う窓口です。市区町村が直接運営する場合と、市区町村から委託された法人が運営する場合の2パターンあります。
市区町村が直接運営する場合は、市区町村の行政保健師が異動のサイクルに合わせて配置されます。
包括保健師の特徴は以下のとおりです。
- 地域住民との関わりが持てる
- 多職種連携の仕事ができる
- 地域の課題解決に貢献できる
介護が必要な高齢者が住み慣れた地域で暮らせるように多職種と連携して介護予防支援やケアプランの作成、サービスの調整を行います。
③病院・クリニック(病院保健師)
健診センターを設置している病院やクリニックもあります。病院保健師の特徴は以下のとおりです。
- 保健指導、特定保健指導のスキルが学べる
- 予防医療に関われる
- 教育体制、フォローが充実している
健診センターでは、健診や特定健診を実施してその結果を保健指導することが主な業務です。医療の知識や技術を生かして予防医療に関われるのが大きな特徴です。
複数の保健師が採用されていることが多いので、教育やフォローを受けながら働くことができます。
④企業(産業保健師)
ある程度規模の大きな企業では、産業保健師を配置するところも多いです。主な業務は従業員の定期健診や特定健診の保健指導やメンタルヘルスといった健康相談などです。
産業保健師の特徴は以下のとおりです。
- 健康経営によって企業の利益に貢献できる
- 従業員の健康や悩みに個別のアプローチができる
- 対象者が同僚なので継続的な関わりが持てる
医療とは全く関係のない分野の企業で働くことができるので、医療の現場から離れたい人に人気の職種です。対象者も同じ立場の社員なので個別的・継続的な関わりが持てるのが特徴です。
大企業の産業保健師は待遇も良く、激戦中の激戦で採用難易度は最高レベルです。
⑤介護施設(施設保健師)
介護施設で保健師を採用している事業所もあります。施設保健師の特徴は以下のとおりです。
- 高齢者との深い関わりが持てる
- 終末期を考慮した健康管理を行うことができる
- 介護のスキルを身に着けることができる
対象が施設内高齢者なので、高齢者との深い関わりを持って余生の健康管理を考えることができるという特徴があります。対象者の人生や状況に寄り添った支援スキルが求められる職種です。
⑥学校(学校保健師)
保健師を採用する学校もあります。公立の学校では養護教諭がその役割を担うことが多いですが、私立の学校では保健師として採用する場合もあります。
学校保健師の特徴は以下のとおりです。
- 生徒との関わりを持ち、成長を見届けることができる
- ケガの応急処置など頼りにされる
- 医療職でありながら教育の現場に身を置くことができる
学校保健師は教育の現場で生徒と関わりながら健やかな心身の成長に寄り添うことができるのが最大の特徴です
⑦特定保健指導業者(業務委託保健師)
社員の特定保健指導を外部の業者に委託する企業も多いです。委託を受けて特定保健指導を実施する業務委託保健師の特徴は以下のとおりです。
- 特定保健指導のスキルを学ぶことができる
- データを扱って分析する力が身につく
- オンラインによる在宅ワークができる
データをもとに健康状態の分析を行い、特定保健指導を行うため特定保健指導の知識と経験が必要になります。オンラインで運営している業者の場合は在宅ワークが可能です。
保健師として就職するための方法は?
保健師として就職する方法は大きく分けて以下の2通りです。
- 公務員試験に合格する
- 就職希望先の採用試験に合格する
公務員試験に合格する
都道府県、市区町村の保健師になるためには公務員試験に合格する必要があります。ポイントは以下のとおりです。
- 受験する自治体が課す公務員試験に合格する
- 公務員試験対策が必須
- 転職サイト等での支援は一切ない
公務員試験は各自治体が独自に課す採用試験のことで、自治体によって内容が異なります。
試験対策は必須で、転職サイトによる紹介や支援がないため、とにかく公務員試験に合格するための対策に集中することが重要です。
就職希望先の採用試験に合格する
都道府県、市区町村で働く行政保健師以外の保健師になるためには、保健師を募集している就職希望先の採用試験に合格する必要があります。特徴は以下のとおりです。
- 求人サイトや企業サイトから応募する
- 転職サイトを通じて応募できる
- 採用試験の敷居は高くない
企業ホームページで求人を掲載することもありますが、ほとんどは求人サイトや転職サイトに掲載しているので、サイトを通じて応募することができます。
公務員試験のような対策が大変な採用試験はないので、対策にかかる時間は少なくて済みます。
注意点として、就職先によって応募要件が異なります。
- 保健師免許:必須
- ワード、エクセルの基本的操作スキル:必須
- 保健師として実務経験:必須
- 産業保健師の実務経験:必須
などです。特に保健師としての実務経験や産業保健師としての実務経験が応募要件にある場合は、それだけでハードルが一気に上がります。
保健師として就職するのは難しい?
保健師として就職する難易度は、やや高めと言えます。その理由は以下のとおりです。
- 基本的に看護師よりは難しい
- 公務員試験の合格は簡単ではない
- 求人が滅多に出ない就職先は難しい
基本的に看護師よりは難しい
看護師は定員が多く、出入りも多い職種なので就職は比較的簡単と言えます。保健師としての就職は以下の理由から看護師と比較して難しいと言えます。
- 募集人員が少ないから
- 倍率が高くなりやすいから
- 経験が求められる傾向にあるから
看護師の募集人員は就職先の規模にもよりますが数十人~多くて100人程度にもなることもあります。一方で保健師の募集人員は基本的に1名~数名程度なので倍率も高い傾向にあります。
一人職場であったり、即戦力が求められる職場もあり、保健師としての実務経験が必須な場合もあるため募集があっても応募要件を満たさない求人も多いです。
公務員試験の合格は簡単ではない
行政保健師を目指す場合、公務員試験を突破する必要があります。公務員試験の合格が簡単ではない理由は以下のとおりです。
- 出題科目が多く、出題範囲も広いから
- 対策には多くの時間が必要だから
- 受験者層が厚いから
公務員試験は出題科目が多く、出題範囲も広いです。そのため対策には多くの時間が必要です。また、数少ない募集枠を多くの受験生が必死になって狙っているため中途半端な気持ちと対策では合格することはできません。
保健師の公務員試験の倍率は3倍~7倍が目安なので簡単に合格できる試験ではありません。
求人が滅多に出ない就職先は難しい
基本的に、求人サイトには保健師の求人は少ないです。あったとしても非正規であったりパートであることも多いです。
保健師の求人が少ない理由は以下のとおりです。
- 保健師の定員がわずかだから
- 募集が不定期だから
- 辞める人がいないため席が空かないから
- 求人情報に載らない求人があるから
待遇が良く定員がわずかである職場の場合、誰かが退職しない限り募集が出ません。仮に退職者が出たとしても年度途中で募集がかかることが多かったり、コネで次の採用者が決まっていることも珍しくありません。
優良求人と出会えるのはタイミングと運にも左右されます。
新卒でも就職できる保健師の就職先
新卒の人が保健師としての就職を希望する場合、就職しやすい就職先は以下2つです。
- 都道府県・市区町村(行政保健師)
- 病院・クリニック(病院保健師)
都道府県・市区町村(行政保健師)
行政保健師は新卒の人が最も採用されやすい保健師の就職先と言えます。その理由は以下のとおりです。
- 新卒の採用が前提だから
- キャリアラダー制度による教育体制が整っているから
- 公務員試験対策にかけられる時間が多いから
自治体はキャリアラダー制度を採用していることがほとんどで、1年目の新任期から教育・指導を行っていくことを前提に教育プログラムを組んでいます。
また、看護学生は実習や試験、アルバイトで忙しいとは言え社会人よりは時間に余裕があるので公務員試験対策にかけられる時間が多いのが強みです。
病院・クリニック(病院保健師)
病院保健師も新卒の人が就職できる可能性のある就職先です。その理由は以下のとおりです。
- 組織化しており教育体制が整っているから
- 長期的に働ける保健師の採用を希望する病院やクリニックもあるから
- 欠員で急募している可能性があるから
病院保健師を採用しているような規模の病院であれば、教育体制や役割分担がしっかりしていることが多いので新卒でもフォローを受けながら仕事を覚えることができます。
長い目で見たときに長期的に働ける保健師を採用することは病院やクリニックにもメリットが大きいです。
新卒での就職は難しい保健師の就職先
残念ながら、新卒での就職は難しい就職先もあります。以下の3つです。
- 企業(産業保健師)
- 介護施設(施設保健師)
- 特定保健指導業者(業務委託保健師)
企業(産業保健師)
新卒で産業保健師として就職するのはかなり難しいと思った方が良いです。その理由は以下のとおりです。
- 一人職場の場合が多く、教育を受けることができないから
- 保健指導・特定保健指導の経験が求められるから
- 即戦力が求められるから
産業保健師は基本的に1つの事業所に1名、多くても2名程度の配置です。専門職として何か分からないことがあっても、自分で考えて解決しなければなりません。
大勢の社員の保健指導や相談に応じ、的確に助言をする能力や技術も必要なので経験豊富な保健師が採用されるのも理解できます。退職者が出たとしても、すぐにその穴が埋められるような即戦力が求められるのも新卒が産業保健師として採用されにくい理由です。
応募要件に『産業保健師としての実務経験』を入れている企業も多いです。
介護施設(施設保健師)
施設保健師は、以下の理由から新卒での採用は難しいと言えます。
- 基本的な看護としての知識や経験が求められるから
- 保健師の人員配置が少なく、教育体制が十分でないから
- 時に看護師や介護士と同じような業務を行うから
施設保健師は、施設看護師と同じように施設における定員が少なく、専門職として自立して様々な視点で問題や課題を解決していく力が求められるからです。
保健師とは言え、看護職なので臨床経験に基づく看護師の視点、知識、技術も求められるため新卒での採用は厳しいでしょう。
特定保健指導業者(業務委託保健師)
業務委託保健師が新卒から採用されるのが難しい理由は以下のとおりです。
- 即戦力、労働力が求められているから
- オンラインなので誰にも直接頼れないから
- 特定保健指導の基礎スキルが必須だから
特定保健指導を企業から依頼されて行う業者なので、特定保健指導ができないと仕事になりません。オンラインの場合が多いため誰かに直接指導を求めることもできません。
給与が十分でなく時給制であったり福利厚生が整っていない場合も多いです。お金をしっかり稼いで知識と技術を身に付けるべき新卒には向かないです。
主婦の方が家計の足しにバイト感覚で行う人が多いです。
看護師からの転職でも就職できる保健師の就職先
看護師から保健師に転職する場合、本当に転職できるのか不安に思う人も多いです。私自身、新卒から7年間看護師をした後に保健師に転職したので気持ちは分かります。
結論、全く問題ありません。看護師からの転職でも就職できる就職先は以下の3つです。
- 都道府県・市区町村(行政保健師)
- 地域包括支援センター(包括保健師)
- 病院・クリニック(病院保健師)
都道府県・市区町村(行政保健師)
行政保健師は看護師からの転職者でも就職しやすい就職先です。その理由は以下のとおりです。
- 社会人でも公務員試験を受けることができるから
- 経験は問わず、公平な試験で合否が判定されるから
- 転職者を積極的に採用する風潮があるから
公務員試験は社会人でも受験することができます。
ひと昔前は25歳未満や30歳未満と厳しめの年齢制限を設ける自治体が多かったですが、近年は35歳未満や40歳未満まで年齢制限を緩和する流れになっています。
経験豊富な社会人経験者を広く受け入れようとする傾向であると言えます。また、公務員試験は試験の点数で合否が決まるため公平に評価されます。努力して試験対策を行った人は採用されるため看護師からの転職でも就職されやすい就職先と言えます。
地域包括支援センター(包括保健師)
看護師から包括保健師への転職がしやすい理由は以下のとおりです。
- 高齢者支援の知識やスキルを持っているから
- 保健師としての経験を必須にしていないこともあるから
- 欠員で急募している可能性があるから
看護師としての臨床経験があると、高齢者支援に関する基本的な知識やスキルが身に付いていることが多いです。
直接的に介護支援に関わる業務をしていなかったとしても、社会経験を積み、退院支援に携わった経験は包括保健師として生かせることが多いです。
欠員を募集しており、保健師としての実務経験を問わないこともあるため看護師から転職できる可能性が十分にある就職先と言えます。
病院・クリニック(病院保健師)
病院保健師も看護師からの転職ができる可能性の高い職種です。その理由は以下のとおりです。
- 同じ病院内で紹介してくれる可能性があるから
- 看護師としての臨床経験があるから
- 組織化されており教育体制が整っているから
もし同じ病院内の健診センターがある場合、内部の調整によって異動できる場合があります。病院としても転職のために退職されるのは大きな痛手なので健診センターへの異動を提案してみるのも手です。
看護師としての臨床経験を活かし、上司からのフォローや教育を受けることでスムーズに転職できる可能性が高いです。
実際に私が働いていた病院の看護師も同じ病院内の健診センターの保健師に転職した人がいました。
看護師からの転職での就職は難しい保健師の就職先
新卒からの就職が難しい就職先があったのと同様、看護師からの転職での就職が難しい就職先もあります。以下の2つがその例です。
- 企業(産業保健師)
- 特定保健指導業者(業務委託保健師)
企業(産業保健師)
産業保健師は看護師からの転職であっても採用されるのは難しいです。その理由は以下のとおりです。
- 産業保健師としての従事経験が求めらることがあるから
- 保健指導・特定保健指導の経験が求められるから
- 即戦力が求められるから
産業保健師は基本的に保健指導、特定保健指導の経験豊富な保健師を採用する傾向にあります。
看護師の臨床経験は非常に貴重で大きな武器になることは間違いありませんが、採用する企業側はあくまで即戦力となる人材を欲しているのが実情です。
特定保健指導業者(業務委託保健師)
業務委託保健師も以下の理由により看護師からの転職は難しいと言えます。
- 即戦力、労働力が求められているから
- オンラインなので誰にも直接頼れないから
- 特定保健指導の基礎スキルが必須だから
特定保健指導は看護師の業務からはかけ離れているため、一から学んでいくには時間と十分な教育体制が必要です。
業務委託の場合は組織的な教育体制が整っておらず、個々の能力に依存しがちなので未経験の人が採用されるのは難しいでしょう。
まとめ
保健師になるためには、保健師免許を所有した上で保健師として採用される必要があります。
保健師の採用は看護師の採用と比較して募集人員が少ないため採用されるのは簡単ではありません。しかし、新卒であっても看護師からの転職であっても保健師として就職することは可能です。
保健師は看護師にはないメリットも多くあるので、保健師になりたい人は是非積極的に挑戦してみてください。