- 病院を退職する時に必要な手続きが分からない…
- 退職した後はどんな手続きが必要なの?
- そもそも社会保険や税金について良く分からない…
勤めていた病院を退職することになったけど、健康保険や年金など、どういった手続きが必要なんだろう?
病院を退職する時は様々な公的な手続き等が必要になります。多くの場合、入職時に総務課で一括して手続きをしてくれるので、特に自分では何もせず何となく過ごしてきた方も多いと思います。
しかし、いざ退職する時に公的な制度や決まりについてしっかり理解しておかないと退職時や退職後に困ることがあります。特に退職後すぐに次の職場に入職せず一定の空白期間が生じる方は要注意です。
私は3回転職をしていますが、最初の頃は何をどうしたらいいか訳が分からず頭が混乱しました。
結論、必要な手続きは5つです。
- 公的医療保険 ☞ 全員必須!
- 公的年金制度 ☞ 全員必須!
- 住民税 ☞ 全員必須!
- 所得税(確定申告)☞ 対象者のみ
- 失業保険 ☞ 対象者のみ
この記事では上記5つの必要な手続きについて、看護師特有の状況を考慮した手続きや、法的なポイントをわかりやすく解説しています。
この記事を読むことで退職後の様々な手続きに関する不安を事前に解消し、安心して次のステップに進めるようになります。
公的医療保険とは国民全員が加入する医療保険
日本は国民皆保険制度なので、生活保護者などの例外を除き、全国民が公的な医療保険に加入しなければならない義務があります。
国民全員で毎月の保険料を集めて、病院にかかったときに皆が基本的に3割の負担で済むようにするためのものです。看護師の場合、職場から貰っている保険証が医療保険に加入している証です。
○○生命などといった保険会社が提供する医療保険は『民間医療保険』と呼ばれ、任意で加入するものです。公的医療保険ではカバーしきれない特殊な医療費や、特定の病気にかかったり入院をした際に給付金が貰える仕組みです。
公的医療保険は以下の4つに分類されます。
- 【被用者保険】は会社員が加入する保険
- 【国民健康保険】は主に自営業の人が加入する保険
- 【医師国保】は小規模クリニック人が加入する保険
- 【後期高齢者医療制度】は75歳以上の人が加入する保険
① 【被用者保険】は会社員が加入する保険
5人以上の従業員がいる会社は、会社自体が被用者保険に加入します。つまり、会社に勤めている会社員は全員この被用者保険に加入することになります。
病院で勤めている看護師の方は「会社員」という言葉に違和感があるかもしれませんが、法人化している病院に勤めている方は全員「会社員」という認識で大丈夫です。
法人化していないごく小規模な病院等は別ですが、通常、病院勤めの方は基本的に被用者保険に加入しています。
病院という組織に雇われているので被用者保険です。
被用者保険は会社単位で加入する公的医療保険で、以下のような特徴があります。
例えば、給与明細に記載されている保険料が月1万円だった場合、本来の保険料は月2万円であり、半分の1万円は会社が支払っています。
子どもや両親など、扶養の要件を満たす親族に対して会社が保険証を発行してくれます。(この場合、追加で保険料が増えることはありません。一人の保険料で扶養親族の分の保険証が貰えます。
② 【国民健康保険】は主に自営業の人が加入する保険
国民健康保険は会社勤めではない自営業や無職の方で、かつ誰かの扶養に入っていない方などが加入する保険です。
①の被用者保険は、会社が加入している公的医療保険の団体(保険者と言います。)から保険証が発行されますが、国民健康保険は居住地の市区町村が保険者になるので、市役所や区役所、町役場、村役場から保険証が発行されます。
国民健康保険には以下のような特徴があります。
例えば、支払うべき月々の保険料が2万円の場合、2万円全てを支払います。
被用者保険であれば扶養に入れることが出来ていた親族も個々に何らかの公的医療保険に加入し保険料を納める必要があります。
③ 【医師国保】は小規模クリニック人が加入する保険
従業員5人未満のクリニックの医師、スタッフ、その家族が加入できる保険です。
従業員が5人以上いたり、法人化しているクリニックは被用者保険への加入が義務付けられています。(ただし、医師国保の状態から法人化した場合、引き続き医師国保に入り続けるということが可能になっています。)
医師国保には以下のような特徴があります。
被用者保険と国民健康保険は収入に応じた保険料が徴収されますが、医師国保は収入に関係なく保険料が一定です。
国民健康保険と同じく、被用者保険であれば扶養に入れることが出来ていた親族も個々に何らかの公的医療保険に加入し保険料を納める必要があります。
④ 【後期高齢者医療制度】は75歳以上の人が加入する保険
後期高齢者医療保険は75歳以上の方が自動的に全員加入する公的医療保険です。これまでにどんな保険に入っていても75歳になった時点で全員がこの保険に移行します。
保険料の折半と扶養制度のある被用者保険は実はかなり手厚い制度だということが分かりますね。
公的医療保険において退職時に必要な手続き
『病院を辞める』=『被用者保険を抜ける』ということです。退職日の翌日から、持っている保険証は失効します。(通常は職場に返却します。持っていても使えなくなります。)
保険証失効後は以下の3つの方法を選択します。
- 任意継続する
- 何らかの公的医療保険に加入する
- 親族の扶養に入る
① 任意継続する
任意継続は退職する会社の被用者保険の被保険者を継続するというものです。退職から20日以内に加入の申請が必要です。もし任意継続するのであれば、退職手続きの際に伝えましょう。
任意継続には以下のような特徴があります。
任意継続できる期間は2年間までになります。その後は他の何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。
これまでの会社の保険料折半がなくなります。例えば、今までに月1万円の保険料を支払っていた場合、退職後は月2万円の保険料を支払う必要があります。
これまで扶養していた親族がいる場合、引き続き扶養を継続することができます。
方法② 親族の扶養に入る
退職後にあなたが親族に扶養される要件を満たしている場合、親族の加入する公的医療保険の扶養に入ることができます。
要件については、親族の加入する被用者保険の保険者に確認してください。
方法③ 何らかの公的医療保険に加入する
前の職場で任意継続せず、親族の扶養にも入らなかった場合は他の何らかの公的医療保険に加入する必要があります。その場合は以下のいずれかの方法をとります。
- 国民健康保険に加入
- 次の職場の公的医療保険に加入
この時に重要になってくるのは空白期間があるかないかです。
次の職場が決まっている場合、次の職場の総務課に入職日がいつになるのか必ず確認をしましょう。
空白期間の有無による手続きのポイントを解説します。
- <空白期間がない場合>
例えば、5/31に退職して6/1に入職した場合、5/31までは前の職場の医療保険、6/1から新しい職場の医療保険に加入することになります。
この場合は特に何の手続きも必要ありません。 - <空白期間がある場合①>
例えば、5/31に退職して6/15に入職した場合、2週間の空白期間が空きます。
2週間の空白期間は国民健康保険に加入する必要があります。
退職時に被用者保険の「資格喪失証明書」という物を必ず貰うので、これを持って市区町村へ行き手続きをしましょう。6/15からは次の職場での公的医療保険に切り替わります。
あれ?6月分は国民健康保険料と新しい職場の医療保険料の両方を二重で支払わないといけないの?
実は、公的医療保険は月末時点で加入していない場合、保険料を徴収しません。
この場合(5/31退職、6/15入職の場合)、
- ~5/31 ➡ 前の職場の医療保険
- 6/1~6/14 ➡ 国民健康保険
- 6/15~ ➡ 新しい職場の医療保険
への加入になります。確かに6/1~6/14は国民健康保険に加入をしていますが、6月末時点では加入していないので6/1~6/14の分の国民健康保険の保険料が徴収されるということはありません。
よって、6月分以降の保険料は新しい職場の医療保険の保険料だけ支払うことになります。
続いて、空白期間がある場合のパターン②、③です。
- <空白期間がある場合②>
例えば、5/28に退職して6/14に入職した場合、前の職場には月末時点で在職していなかったため、5月分の保険料は前の職場からは徴収されません。
この場合、5/29から国民健康保険に加入し、5/31時点で加入していた国民健康保険の保険料を支払うことになります。 - <空白期間がある場合③>
例えば、6/3に退職して6/15に入職した場合、12日間の空白期間があります。5月分については5/31時点で在職していた前の職場の医療保険料を支払います。
6月分については6/30時点で新しい職場の在職しているはずですので、新しい職場の医療保険に保険料を支払うことになります。
よって、6/3~6/15までの12日間の空白を国民健康保険に加入するということになります。(実際は国民健康保険には月末時点での加入がないので国民健康保険の保険料は徴収はされません)
空白が空くなら月末に退職した方がいいよと聞いたことがあるけどそれはなぜ?
例えば、月末の前日に退職した場合、一日でも空白期間が空いた場合は国民健康保険に加入する必要があるため、退職日の翌日(月末)から国民健康保険に加入します。よって退職月の公的医療保険については国民健康保険の保険料が徴収されます。
被用者保険と違い、国民健康保険は保険料の折半がないので、保険料が割高になってしまうことがあります。
また、被用者保険で扶養する被扶養者がいる場合、被扶養者は月末時点で被扶養者の資格を失います。
よって被扶養者は、扶養者の退職月の月末時点で他の何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。それが国民健康保険であれば割高な国民健康保険の保険料を納めなければなりません。
月末に退職した場合、次の月末までに入職すれば国民健康保険の保険料は徴収されないということです。扶養者がいる場合は、保険料の折半はないものの扶養が継続できる任意継続を選択するというのも賢い選択です。
公的年金制度は国民全員が加入する必要がある
公的年金制度も国民の加入が義務付けられており、以下の2種類があります。
- 国民年金(基礎年金)
- 厚生年金
年金制度は20歳から60歳までの人が強制加入する制度です。
このうち、国民年金(基礎年金)は全員が加入しますが、厚生年金は一部の人が国民年金(基礎年金)に上乗せで加入するものです。二階建ての年金制度と良く言われます。
- 【国民年金(基礎年金)】は主に会社員以外が加入
- 【厚生年金】は主に会社員が加入
① 【国民年金(基礎年金)】は主に会社員以外が加入
国民年金は20歳から60歳までの人のうち、会社員でない人が加入するものです。
例えば、無職の方や自営業者です。学生であれば手続きにより猶予することができますが、そうでなければ毎月切れ目なく保険料を納めなければなりません。
② 【厚生年金】は主に会社員が加入
公的医療保険と同じく、法人や常に5人以上の従業員を雇用する会社は厚生年金に加入しなければなりません。
つまり、あなたの勤める病院の公的医療保険が『被用者保険』であれば、基本的に厚生年金にセットで加入していると思って大丈夫です。
厚生年金に加入していると国民年金(基礎年金)と厚生年金の保険料を両方支払うんですね。国民年金(基礎年金)のみの方が負担が少なくて良さそうだけど…
以下の表をご覧ください。
年金種類 | 保険料 (月額) | (月額) 受給平均額 | 加入者 |
---|---|---|---|
国民年金 (基礎年金) | 1万6610円 | 5万6049円 | 自営業 無職など |
厚生年金 | 収入により決定 | 14万6162円 | 会社員 など |
出典:厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」、日本年金機構「国民年金保険料の変遷」
平均ではありますが、将来受け取れる年金額に大きな差があることが分かります。
国民年金(基礎年金)の保険料は年間で固定されていますが、ここ数年は1万6000円台で推移しています。一方、厚生年金に加入している会社員が納める保険料は収入によって算出されます。
例えば、年収450万円(ボーナス除く)の方の厚生年金保険料を計算すると、およそ7万円です。この7万円は国民年金(基礎年金)の保険料を含んだ金額です。ボーナスの分はその額によって支給月に厚生年金保険料として天引きされます。
国民年金(基礎年金)に比べて高くない?
確かに高いですが、被用者保険と同様に、厚生年金についても会社が保険料を折半することになっています。よって、半分の3万5000円は会社が支払うので、あなたが納める厚生年金保険料は3万5000円になります。
もともとの7万円には国民年金(基礎年金)の保険料も含まれているため、国民年金(基礎年金)の分まで会社が折半してくれているという見方もできます。
厚生年金保険料は国民年金(基礎年金)保険料より高くなりますが、会社が折半してくれる上に将来手厚い年金額も受給できます。
公的年金制度おいて退職時に必要な手続き
前提として「国民年金」と「厚生年金」という言葉を以下のように定義します。
- 国民年金:国民年金(基礎年金)のみに加入している状態
- 厚生年金:国民年金+厚生年金に加入している状態
まず最初に、公的年金保険料は公的医療保険と同じように、月末時点で加入していた場合に発生し、1か月分の保険料を翌月末日までに納める(大体は給料から天引き)仕組みになっています。
また、公的年金制度は公的医療保険と同じように、退職日と入職日との間の空白期間が重要になります。公的医療保険のように空白期間が1日でもあれば、基本的に国民年金の手続きが必要です。
- <空白期間がある場合①>
退職日が5/15、入職日が6/15の場合、5月末の5/31は会社に属していないため、5月は厚生年金に加入していない月となります。この場合、5月は国民年金に加入する必要があるので、年金事務所へ行き、国民年金への加入と納付手続きが必要になり、5月分の国民年金保険料の納付が必要です。 - <空白期間がある場合②>
退職日が5/31、入職日が6/15の場合、退職日の5/31は月末であり、月末時点で厚生年金に加入しているため5月分の年金保険料は退職した会社で6月に厚生年金として今までと同様に折半されて徴収されます。この時、国民年金保険料が徴収されることはありませんが、制度上6/1から6/14までは国民年金に加入しなければならないので年金事務所での手続きが必要です。
月末に退職すると厚生年金保険料が2か月分徴収されるって聞いたけど本当?損してるの?
実は月末に退職した場合、5月の給与天引きの際に4月分の厚生年金保険料と5月分の厚生年金保険料の2か月分を徴収されることがあります。
一見損しているように見えますが、損はしていません。
例えば、前の職場での給料日の締めが毎月25日で、翌日の26日に振り込みだったとします。
前の職場で働いた26日~31日までの6日間の給料は、新しい職場にいる6月中に振り込まれます。本来この時に5月分の厚生年金保険料を給料から天引きしますが、6日間の給料だけでは天引きしきれない可能性があります。
こういったことを防ぐために月末に退職した場合に限り、会社は翌月に徴収する分の厚生年金保険料を前もって徴収することができるようになっています。
仮に5/30に退職して6/15に入職したとしても5/31には国民年金に加入するため、いずれにせよ一か月分の年金保険料の納付は必須です。
どうやっても年金保険料の納付を避けることはできません。
一か月分だけ厚生年金ではなく国民年金を支払った方が安く済む場合もありますが、その分厚生年金の加入期間が短くなり将来の受給額が減少するので大した損得にはなりません。
住民税は住んでいる自治体に納める税金のこと
住民税には二種類あります
- 個人住民税
- 法人住民税
法人住民税は雇用主が納める税金なので、皆さんに関わってくるのは個人住民税になります。働き始めの新人の頃、先輩から「来年からは住民税が引かれるよ。」なんて言われたことがあるのではないでしょうか。
個人住民税は以下のようなものです。
住民税おいて退職時に必要な手続き
会社を退職した場合、住民税が自動的に納付(特別徴収)されなくなるので、次の会社に入職するまでに納税すべき住民税は自分で納付する必要があります。
とはいえ、住民税については特別な手続きは不要です。
市区町村は住民税を『誰が』、『いつからいつまで』、『いくら納税したか』をすべて把握しています。次の職場で住民税の特別徴収が開始するまでに未納の住民税があった場合、住民税の納付通知書がご自宅に送られてきますので、納付書を用いて納付すれば大丈夫です。
確定申告(所得税)は雑所得が年間20万円を超える場合に必要
所得税とは、簡単に言うと毎月の給料額に応じた額を納税するものです。給与明細には必ず『所得税』の項目があり、毎月天引きされています。
基本的に退職して次の職場に就職するまでは所得がゼロになるか、自営業の収入や副業収入によるもののみになります。
所得がゼロならば当然所得税はかかりませんが、例えば自営業の収入や副業収入がある方は収入額によっては所得税を納税する必要があります。
給料以外での所得に対する税金(所得税)を納税する方法が確定申告です。
ただし、退職した時点で確定申告が必要なくらいの副収入がある方については、すでにそれまでに確定申告をした経験があることでしょう。
経費などの細かい話は置いておき、副業収入が年間20万円を超える場合は確定申告をして所得税を税務署に納める必要があります。
もし、退職後に会社へ就職せずに自営業やフリーランスに転職したり、その他の副業収入を得る場合は確定申告が必要になる場合がありますので頭の片隅に置いておきましょう。
失業保険は次の就職先が決まっていない場合に活用しよう
失業保険とは以下のようなものです。
ただし、失業保険には受給の要件がありますので、失業保険の受給をお考えの方はお近くのハローワークにお問い合わせください。
一般的には次の転職先が決まってから退職することが多いと思いますが、中には様々な理由で次の転職先が決まっていない状態で退職する方もいるかと思います。
退職後すぐに転職先が見つからない方は、積極的に利用してみてください。
まとめ
病院を退職する際に必要な公的な手続きについては、最低限以下の5つの手続きを押さえておけば大きな問題は起こりません。
- 公的医療保険 ☞ 全員必須!
- 公的年金制度 ☞ 全員必須!
- 住民税 ☞ 全員必須!
- 所得税(確定申告)☞ 対象者のみ
- 失業保険 ☞ 対象者のみ
安心して退職、転職活動に専念してください!