- 労働組合運営という言葉を曖昧なまま使っている退職代行業者は多い
- 労働組合「運営」でも「提携」でも信頼できる業者なら問題ない
- 実は、労働組合「運営」の代行業者を疑問視する声もある
- 結論、信頼できる業者ならどちらでも問題ない
労働組合が関与する退職代行において、「労働組合運営」という言葉がよく使われます。実は、「労働組合運営」という言葉が曖昧な意味のまま使われ、誤った理解をしているというケースが多いです。
誤った理解や曖昧な理解のまま退職代行を利用すると、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクもあります。大切なのは、正しい知識をもって退職代行業者を選ぶことです。
この記事では、「労働組合運営」の正しい意味と知識を解説しています。この記事を読むことで、受け身ではなく自ら信頼できる退職代行業者を選択し、トラブルなく退職に成功するためのスキルが身に付きます。
労働組合とは労働者の権利を守る団体のこと
労働組合は、働いている人なら誰でも加入できる団体のことで、以下の特徴と目的を持ちます。
- 自分の職場以外の労働組合にも加入できる
- 労働者の権利を守る
- 独立・中立の存在
- 団体交渉によって労働条件の改善を図る
自分の職場以外の労働組合にも加入できる
自分の職場以外の労働組合にも加入することができます。地域や職場に関係なく、個人で加入できる労働組合を合同労働組合と言い、加入することで組合員としてさまざまな支援を受けることができます。
合同労働組合のことを「ユニオン」と呼ぶことが多いです。
退職代行では、申し込みと同時に退職代行業者が運営もしくは提携する労働組合に加入することで、組合員としての団体交渉権を使用することが可能です。
労働者の権利を守る
労働組合の大きな目的は労働者の権利を守ることです。具体的には以下の点が挙げられます。
- 賃金交渉
- 有給休暇の取得
- 未払い給与の支払い交渉
- ハラスメント防止
- 労働条件の改善
- 福利厚生の拡充
- 不当な解雇や懲戒処分の防止
雇用される側は雇用する側よりも弱い立場になりやすいです。労働組合は、労働者としての権利を主張しつつ両者が対等な立場を維持するために重要な役割を果たしています。
独立・中立の存在
労働組合には独立性と中立性が求められます。労働者の権利を守るため、会社の影響を受けず対等な立場で交渉する必要があるからです。そのため、雇用する側の立場である管理職や経営陣は労働組合に加入することはできません。
労働組合が独立性と中立性を保っていれば、法的に信頼感も高まり労働基準法や労働組合法に基づいた活動が行えます。
団体交渉によって労働条件の改善を図る
団体交渉とは、労働者が集まって会社との間で労働条件や労働者の権利について交渉することです。団体交渉権は以下の法的根拠を持ちます。
- 日本国憲法第28条
- 勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保証
- 労働組合法
- 使用者(会社)に団体交渉の応諾義務を課し、正当な理由のない拒否を禁止
つまり、労働者は団体をつくって会社にさまざまな交渉を行うことができ、会社側は特別な理由がない限り交渉に応じなければならないという決まりです。個人では伝えることが難しい要望を、法律の保護を受けながら会社に交渉できる点が大きなメリットです。
労働組合「運営」と「提携」の違い
退職代行の多くは労働組合が間に入っています。法律で定められた団体交渉権を用いて労働者の権利を守ることで、有利な条件で退職できるからです。労働組合が関与する退職代行業者には「労働組合運営」と「労働組合提携」の2種類があります。両者の違いについて解説します。
- 「運営」は労働組合が事業を運営
- 「提携」は民間企業が事業を運営
「運営」は労働組合が事業を運営
労働組合運営の退職代行業者は、労働組合自体が法人化して事業運営しています。以下の表のとおり、事業者も事業の運営者もすべて労働組合である点が特徴です。
実施内容 | 実施主体 |
退職の意思表示 | 労働組合 |
退職時の交渉 | 労働組合 |
事業の運営 | 労働組合 |
退職の意思を会社に伝え、必要に応じて団体交渉を行い、事業の運営を行うすべてのプロセスを法人化した労働組合が単独で担っています。
「提携」は民間企業が事業を運営
労働組合提携の退職代行業者は、民間企業が会社を設立して事業運営しています。以下の表のとおり、事業者は民間企業ですが、事業の一部を労働組合が運営しています。
実施内容 | 実施主体 |
退職の意思表示 | 民間企業 |
退職時の交渉 | 労働組合 |
事業の運営 | 民間企業 |
有給消化や未払い賃金の支払い要求などの団体交渉権が必要な場合、労働組合員として交渉し、それ以外は民間企業が運営を行っています。
実は労働組合が事業運営している退職代行は少ない
「労働組合運営」と公式サイトに書かれている退職代行業者のほとんどは、労働組合が法人化して事業運営しているものではなく民間企業が事業運営しています。以下は、弁護士を除いたよく見かける退職代行業者の一覧です。
参 考 | 労働組合名 | 事業運営者 |
退職代行ネルサポ 15,000円 | ユニオンネルサポート | 労働組合ネルサポート株式会社 |
退職代行ヒトヤスミ 16,500円 | (株)PULLBACK | |
退職代行CLEAR 18,000円 | (日本労働基準組合) ※実在するか確認できず | (株)ペイジェント |
退職代行EXIT 20,000円 | EXIT株式会社 | |
退職代行J-NEXT 20,000円 | 閉鎖? | |
退職代行ABAYO 22,000円 | (株)アクロサポート | |
退職代行 辞スル 22,000円 | (日本労働改善ユニオン) ※実在するか確認できず | (株)シーズ |
退職代行モームリ 22,000円 | 労働組合改善組合 | (株)アルバトロス |
退職代行OITOMA 24,000円 | 日本通信ユニオン | 労働組合運営(株)H4 |
退職代行SARABA 24,000円 | 労働組合SARABAユニオン | (株)スムリエ |
退職代行 即ヤメ 24,000円 | ネルサポート株式会社 | |
退職代行ガーディアン 24,800円 | 東京労働経済組合 | (法人) | 東京労働経済組合
退職代行ピンチヒッター 25,000円 | (株)Pino | |
退職代行トリケシ 25,000円 | 日本労働産業ユニオン | (株)warabe |
男の退職代行 26,800円 | (合同労働組合 「退職代行toNEXTユニオン」) ※実在するか確認できず | to-NEXT.jp |
「辞めるんです。」 27,000円 | 全国統一労働組合 | LENIS Entertainment株式会社 |
退職代行ニコイチ 27,000円 | (株)ニコイチ | |
退職代行 WILL 27,000円 | (株)プリーマコーポレーション | |
リーガルジャパン 27,000円 | 日本労働産業ユニオン | (株)アニマルバンク |
退職代行ベスト退職 28,000円 | (株)アルセ | |
退職代行Jobs 29,000円 | ユニオンジャパン | 合同労働組合(株)アレス |
わたしNEXT 29,800円 | (合同労働組合 「退職代行toNEXTユニオン」) ※実在するか確認できず | to-NEXT.jp |
リトライ 30,000円 | 行政書士翔事務所 |
驚く人も多いと思いますが、分かるとおり、この中で事業のすべてを労働組合が運営している退職代行業者は退職代行ガーディアンのみで、それ以外は全て民間企業が事業運営者です。事業の運営者を見分けるポイントと、注意点を解説します。
- 事業の運営者は特定商取引に基づく表記をみればすぐに分かる
- 「提携」なのに「運営」と書くのは法律的に怪しい
- 検索しても出てこない労働組合は信じない
事業の運営者は特定商取引に基づく表記をみればすぐに分かる
インターネット上で商品やサービスを販売する事業者は、特定取引法第11条により「特定商取引に基づく表記」を記載する義務があります。主な記載事項は以下のとおりです。
- 事業者の氏名(名称)
- 住所
- 電話番号
- 販売責任者名
- 商品の販売価格
- 送料などの付随費用
- 支払い方法と時期
- 商品の引き渡し時期
- 返品・キャンセルの条件
事業の運営者は「事業者の氏名(名称)」に該当します。事業者の氏名(名称)が法人化された労働組合であれば労働組合が事業の運営者であり、株式会社などの会社であれば民間企業が事業の運営者ということです。
特定商取引に基づく表記が見当たらない
特定商取引に基づく表記は、公式サイトの下部にリンクが貼られていることが多いです。しかし、専用ページを設置していない事業者もいます。記載すべき内容が公式サイト内で満たされていれば専用ページの設置は必須ではありませんが、消費者の信頼や透明性の確保という点では、専用ページを設置してある方が安心感につながります。
「提携」なのに「運営」と書くのは法律的に怪しい
退職代行という事業の運営者が民間企業である場合、「労働組合運営」と公式サイトに記載するのは法律的に怪しいと言えます。なぜなら、消費者の誤解を招く表現になっているからです。具体的には以下の観点から問題視される可能性が高いです。
- 虚偽広告
- 不正競争防止法
- 消費者契約法
- 景品表示法
- 特定商取引法
公式サイトに「労働組合運営」と記載されており、退職代行の事業全体を労働組合が運営していると思っていたら、実際は労働組合提携の民間企業が事業の運営を行っていたということが起こり得ます。
事業者には、消費者に分かりやすく情報を伝えなければならない責任があります。消費者にとって分かりにくい表現をするのは好ましくないと言えるでしょう。
検索しても出てこない労働組合は信じない
インターネットで調べても実態や情報が出てこない労働組合は信じない方が無難です。実態が分からない以上、本当に実在するかどうか確認する方法がないからです。たとえ実在していたとしても、情報が不透明な労働組合と提携している退職代行業者を選択するのは一定のリスクが存在します。
労働組合の実態が明らかで、信頼できる退職代行業者は他にたくさんあります。あえて実態の分からない労働組合と提携している業者は、選ばないようにしましょう。
「提携」なのに「運営」と表記する業者が多い理由
実態は労働組合提携なのに労働組合運営と表記する業者は多いです。その理由は以下のとおりです。
- 「運営」という言葉を曖昧なまま使っているから
- 「運営」と書いた方が信用されやすいから
- 消費者の理解・認識が甘いから
「運営」という言葉を曖昧なまま使っているから
「労働組合運営」と表記していても、具体的に何を運営しているのかが明記されていないことがほとんどです。言葉の定義が曖昧だと、さまざまな解釈ができるので消費者に誤解を与えやすいです。
実際は、事業の運営自体は民間企業が行っていても、退職意思の伝達や交渉は労働組合の組合員が行っているという理由で、「労働組合運営」と表記する業者が多いように思います。
「運営」と書いた方が信用されやすいから
「労働組合提携」と書かれているより、「労働組合運営」と書かれていた方が消費者として信用されやすいという事実があります。
例えば、高級な靴をメーカーの公式サイトから買う場合と、楽天やAmazonで買う場合では、メーカーの公式サイトで買った方が一般的に信用されやすいということと同じです。
結果的に消費者のサービスへの申し込みにつながるため、実態は「労働組合提携」であっても「労働組合運営」と表記する業者が多いです。
消費者の理解・認識が甘いから
消費者側の理解や認識が甘いことも原因のひとつです。退職代行業者の公式サイトに「労働組合運営」と書かれていれば、私たちは以下のような印象を持ちます。
- 退職代行の事業のすべてを労働組合が運営している
- 労働組合が運営しているなら安心
- 「提携」よりも「運営」の方が安心
公式サイトの表記をそのまま受け取ると、実際と異なる解釈をする可能性があります。消費者として、法律で定められた表記を確実に確認し、商品やサービスの特徴や会社の概要を理解することは非常に重要です。今やインターネットでの商品やサービスの購入が当然になっているため、消費者としてのコンプライアンスが甘いという点も誤解を生む原因になっています。
労働組合「提携」でも法的には問題ない
「労働組合提携」と「労働組合運営」では、一般的な信用のされやすさに違いはありますが、退職代行で退職するにあたっては安全性や法的リスクに差はありません。その理由を以下の2点から解説します。
- 退職の意思表示は弁護士でなくても行えるから
- 労働組合が交渉を行っていれば問題ないから
退職の意思表示は弁護士でなくても行えるから
退職の意思を第3者が代わりに伝えるということは、以下の根拠のとおり弁護士でなくても可能です。
- 民法上の代理に関する規定(民法第99条)
- 裁判所による過去の判例
- 弁護士法の範囲
民法では、第3者が本人の代わりに退職の意思表示を行った場合でも効力が発生し、裁判所の過去の事例でも第3者を通じて退職の意思表示を行うことは有効であるとしています。弁護士法の観点でみても、単に退職の意思を伝えるという行為そのものは弁護士以外でも認められています。
以上の理由から、「労働組合提携」でも「労働組合運営」でも退職の意思表示を行う点ではどちらも法的な問題は生じません。
労働組合が交渉を行っていれば問題ないから
退職の意思表示以外の交渉については、弁護士と労働組合のみが法的に認められています。退職代行における交渉とは以下の点が挙げられます。
- 有給休暇の消化
- 未払い賃金の請求
- 退職金・ボーナスの支払い
- 退職日の調整
交渉自体を労働組合員が行うのであれば、「労働組合提携」でも「労働組合運営」でも法的に全く問題がありません。
確認だけなら、どの業者でも可能
上記の内容について「確認」することは民間企業が単独で運営している業者でも可能です。しかし、会社側が拒否した場合には一切の交渉や主張が行えないため、諦めるしか選択肢がありません。聞き方や話し方によっては会社側が「交渉」だとみなす可能性もあり、トラブルに発展するリスクもあります。
労働組合が事業を運営する退職代行を疑問視する声もある
「労働組合提携」よりも「労働組合運営」の方が世間的に信用されやすいイメージがある一方で、労働組合が退職代行という事業を運営することを疑問視する声もあります。その理由は以下の2点です。
- 本来の目的から逸れる可能性
- 営利活動とみなされる可能性
本来の目的から逸れる可能性
労働組合の本来の目的は、労働者の権利を守り、より良い労働条件を実現することです。確かに、労働組合が退職代行を行うことは労働者の権利を守ることにつながります。しかし、退職代行ばかりに力を入れることで労働条件の改善という問題解決からは離れてしまう可能性があります。
退職代行は個人的な問題解決を目的としている点も、労働者全体の利益を追求するという本来の役割が薄れるのではないかと言われる理由のひとつです。
営利活動とみなされる可能性
労働組合は一般的に非営利団体として位置づけられています。個人の経済的な利益追求ではなく、労働者の権利を守り、労働条件を改善することが目的の団体だからです。労働組合が事業を運営する退職代行業者が数万円の費用を徴収する場合、営利活動ではないかと疑問視される声もあります。
しかし、費用を徴収したとしても組合員の福利厚生に直結したり、組合運動の資金源にするのであれば営利目的とみなされないという視点もあります。厳密な線引きが難しいというのが現状です。
結論:信頼できる業者なら「運営」でも「提携」でも問題ない
「労働組合提携」と「労働組合運営」では、どちらの形態であっても信頼できる業者であれば法的なリスクを負う可能性はほぼありません。第3者による退職の意思表示は弁護士でなくても認められており、交渉は実在する労働組合が行っているという事実があれば法的な問題は生じないからです。
数ある労働組合が関与する退職代行業者の中で、信頼できる業者かどうかを判断するには以下の点を確認してください。
- 実在する労働組合か
- 料金体系が明確か
- 無料相談があるか
- アフターフォローがしっかりしているか
- 口コミやSNSでの評判が良いか
返金保証やあと払い、24時間対応、即日退職、退職届のテンプレートの用意などの付加価値をつけている業者も多いです。しかし、根本的に信頼できる業者かどうかという点では、上記の基準を満たしていることが最重要です。
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まとめ
労働組合が運営する退職代行は、労働組合が直接事業に関わっているか、提携しているかで大きく2つに分かれます。一般的に「労働組合運営」と表記されている業者の多くは、実際には労働組合と提携している民間企業が運営しているケースが多いです。
しかし、どちらの形態であっても、労働組合が関与している以上、労働者の権利をしっかりと守ってもらうことができます。大切なのは、労働組合が実在し、信頼できる業者かどうかをしっかり見極めることです。料金体系やアフターフォローなども参考に、自分に合った退職代行業者を選びましょう。